[本文へジャンプ。]

「バーチャルメディア工房ぎふ」とは!
  • HOME
  • 「障害者の在宅就業における新たな職域に関する調査研究」を終えて明らかにされた課題と提言について

[ここから本文です。]

「障害者の在宅就業における新たな職域に関する調査研究」を
終えて明らかにされた課題と提言について

1.はじめに

当法人が「平成21年度障害者保健福祉推進事業(障害者自立支援調査研究プロジェクト)」に応募し、調査研究に取り組むに至った経緯について述べる。

平成10年(1998)より岐阜県の指導の下に、障害者の社会参加の一環として在宅就業を支援する取り組みを行っている。障害者の就労を考える時、「在宅」という形は決して本来の姿ではなく、一般就労の場で「受け入れる体制」が整っていないための一時的なものであり、それさえ解決すれば、健常者と共に語り・助け合い、競い合う中で「働く」ことがベストだと考えてきた。こうした思いは、取り組みを始めた時、県内の企業や自治体、障害当事者に対し行ったアンケート調査の回答の中にも見られた。

しかし、取り組みも12年目を迎える中で、日々の支援業務や相談活動を通し、こうした考え方も大きく変わろうとしている。

平成18年(2006)より障害者自立支援法がスタートした。その是非について賛否両論のあることは別として、障害者の就労への意識の高まりと、大きな問題意識が芽生え始めていることは確かである。 障害の種別や程度・特性により一般就労を断念せざるを得ない重度の障害を負い、「就労/雇用」ではなく、敢えて「就業/請負」と言う形態の中に、生き甲斐や生活の糧を求めている人達に加え、社会問題化され始めている、障害の枠を越えた障害(LD、ADHD、アスペルガー症候群など)のある人達からのニーズも急増し、新たな対応が求められている。

現状においては、 幅広い対応に迫られている当法人のような在宅就業支援団体では、自立支援法をはじめ、平成18年の改正雇用促進法の中で、厚生労働大臣による登録制度と企業への報奨金等の制度が設けられたものの、その位置づけは曖昧で、実際の支援活動におけるメリットは皆無に等しい状況にある。

このところの世界的な景気の停滞状況下において、これまで頼みの綱であった自治体からの発注でさえ、予算削減の影響を受け激減し、続けてきた支援活動において支障をきたすばかりか、その存続さえ危うくなってきている。

そうした現状を踏まえ、少しでも現在の取り組みを継続的かつ円滑に進めていくために、在宅就業における職域の展開範囲の可能性について、当事業を受託し調査研究に取り組んだ。

本報告書作成にあたり、「障害当事者」「当調査研究検討委員」「当法人代表」としての立場より、在宅就業における職域の拡大につながると思われる課題について精査し、以下の項目/視点に分け、まとめたい。

2.課題と提言

(1)支える社会

1)行政における役割/制度と社会システム

「在宅就労については、そのポテンシャルの高さに比べ、課題の解決(又は何が課題なのかの把握)が行政のなかで遅れているのかもしれないと感じている。 」

最近、障害者の就労に関係する行政担当者との会話の中で聞いた一言である。在宅就業の支援に関わる立場として、些かの安堵感を覚えると同時に、解決の矛先の一端を此処/行政に向けることは早計だろうか。

平成18年(2006)の改正雇用促進法により、新たに設けられた厚生労働大臣の登録による「在宅就業支援団体」として、初年度第一期(H18.5.26.)に登録をした団体の中には、申請後3年を経過する前に取り組みを止めたり、更新手続きを断念したところがある。このことは、今回の調査研究の中で、運営上での厳しさを訴えている団体の殆どが、当事者並びに、それを支援する関係者からなるNPO法人である。

このことに直視した時、支援団体の素養に寄るところもあるが、縦割り行政による弊害に起因しているところも少なくないと考えられる。

現行の自立支援法の実施において、我が県においても5ケ年計画が策定され、その円滑な実施に向け、中核となる機関や団体の設置(障害者就業・生活支援センター/窓口:労働)と地域のネットワーク化が図られようとしているが、これらの組織が、全国的にみても自治体ごとの理解の違いと、急ぐあまりに十分な知識や経験を備えた指導員や中心となる人材不足のままスタートし、障害者の就労を支援する機能を十分に果たしていないと言っても過言ではない。施行以前に障害者の社会参加を支え活躍していた組織(障害者生活支援センター/窓口:福祉)の機能さえ阻害しかねない状況も生じている。

仮に、こうした中核機関や団体が、三障害全てにきめ細かな対応と支援がなされていれば問題はないが、その大半が知的障害者に特化し、身体障害者をはじめ重度の精神障害者や、社会問題化され始めている従来の障害の枠を越えた障害(LD、ADHD、アスペルガー症候群など)者等には対応に苦慮し、公的機関(ハローワークや職業センター等)と協議の上、安易に在宅と結びつけ、在宅就業支援団体へ丸投げしてくるケースが急増している。それらも含め、在宅就業支援団体では、本来の目的と活動分野以外の幅広い取り組みが求められ対応している状況である。

障害者が、在宅就業を必要とし、その為の育成と支援が求められている現状において、自立支援法における、

  1. システムの正常化に向けての改善と、当事者が安心して取り組みの出来るまでの指導。
  2. 在宅就業支援団体への公的な支援と施策における位置づけの明確化。
  3. 助成制度等をも含む施策上での格差の是正(含、福祉施策と労働施策上での対応格差)

は、今後制度見直しにおいて早急なる対応を願わずにはおられない。
特に、障害者の就労への理解と機会の拡大に加え、在宅就業を含めた幅の広い職域を拡大するために、

  1. 岐阜県における「ハート購入制度(障害者雇用努力企業等からの物品等調達制度)」(県財政の厳しさにより最近少しトーンダウン気味ではあるが・・・)のように、国や県等の行政が、企業等の手本となるような雇用の拡大や業務の優先発注を行ったり、
  2. 大阪府等でみられる、福祉や公共性の度合いも加味した「総合評価入札制度」のように、思い切った制度や慣行の見直しも必要ではないだろうか。
  3. 求職側の障害者と、求人側の企業の間に立ち、障害特性や障害者の気持ち、夢の実現等にきめ細やかな配慮の出来る、ITシステムを利用し、指導・育成の出来る人材の養成と確保。コーディネートシステムと窓口が必要である。

これまで、重度障害児の特殊教育分野におけるコミュニケーション・ツールとしての活用や、中途障害者の社会参加のためのリハビリテーション(以下、リハ)訓練の場において、重度の障害を負った者に対し、就労への近道として積極的にITの利活用が進められてきた。ITによる雇用支援の環境は整備され、可能な状況にある。 今回の調査の中で、障害者や企業関係者から「相談・問い合わせ窓口が分からない」「同じような所が幾つもあり、何処に行けばいいのか迷う」「問い合わせをするとたらい回しにされた」と言う意見もあり、窓口の整理統合の必要性と、行政を含めた企業と障害者等を支える情報伝達システム作り、その後の普及啓発と実施状況の見守りと指導は必要だと考えられる。


2)教育との連携

11年間の取り組みより、幾つかの問題点や課題が見えてきた。

  1. 個性や力量に加え、障害種別と就労経験の有無、年齢等による意識的格差
  2. 学校教育や家庭環境による社会性の違い
  3. 教育と感性のバランスのあり方
  4. 働くための社会環境の未整備
  5. 障害の度合と在宅就業によるストレス対策
  6. 制度も含む介助・介護の問題

等があげられる。

平成12年(2000)、岐阜県の北欧視察団のメンバーに加わり、スウェーデンに行く機会に恵まれた。福祉をはじめ、IT産業と障害者の就労の現状や支援の状況を視察し、この分野への期待と取り組みに対する力の入れ方には目を見張るものがあり、我々の目指す方向性に自信がもて、今後に対する責務の重さを実感した。

同時に「同じ屋根の下での自立」と言うのか、同一家屋の中でホームヘルプ制度を利用し、家族の介護や援助を受けることなく、在宅でパソコンを使い仕事をしている障害者の姿/形態を間近にみることが出来たが、これこそ、今の私達に大きな指標を示してくれていたように思われる。

我が国においては、先天性の障害者の場合、ともすると家族が一生手元に置いて面倒をみるのが当たり前のようになっている。学校教育/特別支援学校の現場においても「褒めの教育」的対応が多く見られるが、障害をもつ者の真の自立を考えた時、障害による制約はあるものの、親が亡くなった後の事も視野に入れて考えられるような指導・支援、厳しさも必要だと考えられる。また、特別支援教育の現場では、

  1. 家族を含む幼児期からの生活の質(QOL)に対する知識や社会性を養うための教育
  2. 働くための意識等メンタル面を含めた職業リハビリテーションの実施
  3. 職域によって不可欠と思われる、美的感覚や感性を育むための教育
  4. 働くための知識や判断材料としての社会性を身につける場/経験の機会の提供

は、今後父兄への対応も含め、欠くことの出来ないものと考えられる。調査の中で、ある企業の社長が

「今の景気状況の中では、企業としても社会的責任(以下、CSR)ばかりにとらわれ、優先している訳にいかず、いずれは生産性を優先する時が来ることになる。 その時は、いま生産ラインで働いてもらっている障害者の人達を止めて、開発や設計の現場で役立つ技術を持った障害の人に切り替えていかざるを得ないと考えている」
と言われた。

昔から景気の動向がいち早く障害者の就労に影響を与える状況下にあって、こうした意見に真摯に耳を傾けると同時に、これまでのように、予め準備をされた一定の教育や訓練・研修プログラムの中で、目指すものが明確化されないまま、漠然と受身的な姿勢で取り組むのではなく、

  1. 個性や力量に加え、障害種別と就労経験の有無、年齢等による意識的格差
  2. 学校教育や家庭環境による社会性の違い
  3. 教育と感性のバランスのあり方
  4. 働くための社会環境の未整備
  5. 障害の度合と在宅就業によるストレス対策
  6. 制度も含む介助・介護の問題

は必要不可欠だと考える時がきているのではないだろうか。

(2)受け入れる社会

1)企業

在宅就業の支援に関わる中で、障害者の雇用・就労が伸びないのは、「受け入れる社会」としての企業側の、障害ならびに障害者の能力に対する認識と理解不足によるものが大きいと考えていた。県内企業に対して、法定雇用率の低さ/未達成と在宅就業(含む、支援団体)に対する認識の低さから、否定的な思いを抱いていた。

今回の調査研究で、これまで存在すら知らなかった企業への訪問を始め、多くのトップや担当者と出会い、企業側のもつ障害者に対するイメージや捉え方、障害者の雇用・就労とCSRに対する考え方を知ることが出来た。法定雇用率や受け入れる為のバリアフリー化への対応と、制度や助成金等の利用においても大きな格差があり、それらは企業規模の大小に関係なくトップの考え方にあることも分かり、今後の取り組みに大きな希望感さえ抱くことも出来た。

しかしながら企業の中には、まだまた旧態然とした考え方が多く存在していることは否定できない。 企業のトップや担当者が、 法定雇用率や雇用保険法の改正を控え、CSRや法律遵守の義務感ではなく、人(含む、障害者)にとって「働く」・「働く場」の意義について改めて問い直してもらいたい。

殆どの企業において、責任の有無とは別に、社員が中途で受傷をしたような場合に、職場復帰を含め最善の配慮と対応をするケースが多い。 その考え方と同じように、雇用に際し、「障害者を雇う」のではなく、求人に応募してきた人が「たまたま障害をもっていた」という考え方に立った対応がなされ、「何が出来る?」のではなく、「どんな対応をすれば、効率/生産性の上で働きやすく戦力になるのか?」という視点に立った対応がされるようになれば、これまで見えてこなかったような新たな職域が広がるのではないだろうか。

今回の調査研究は、必ずしも当初の期待に結びつくような前向きな結果ばかりが得られた訳ではないが、期間中に複数の企業からの雇用に対する相談や、「こうした不景気な時だからこそ、効率の良い業務運営(在宅への移行も含め)を考える中で、能力さえあれば障害者を・・・」と、積極的な問い合わせもあり、これまでの思いや考え方の間違いに気づき反省すると同時に、今後の取り組みに向け、まだまだ未整理で課題も多く残るが、大いに期待するものである。

企業と障害者が、ITを利活用し新たな職域を検討する必要性があると同時に、国においても、省庁間の壁を取り外した幅広い視点での支援施策の検討と実施がなされることに大いに期待するものである。

2)共に支え・拓く支援団体

今回の調査研究により、職域拡大に向け支援団体(厚生労働大臣による登録)としての役割、方向性について整理してみる。

図-1 今後の就業支援体制と在宅就業支援団体の役割

全国の在宅就業支援団体においては、運営に四苦八苦している現状にある。現行制度の枠組みの中身は、厚生労働大臣による登録制度は設けたが、取り組みのメリットは愚か、団体を支援する効果的制度として機能していない。現行の障害者に対する福祉面や就労支援制度において、その位置づけが曖昧で、明確化されていない状況にある。

反面、在宅就業支援団体の担っている役割と対応範囲は広く、寄せられる期待とニーズは大きく、年々増えている。

図-1は、現在行っている、当事者と企業や行政への橋渡し的役割、企業等への普及啓発、当事者への就労に対する意識面を含む職業訓練的関わりを図にしてみた。

今回の調査により、企業が求める技能・技術に特化した、即戦力につながるような研修や教育の必要性が明らかになった。

既に神奈川県等では、ジョブマッチングが始まっているが、1.在宅就業の斡旋を通してのジョブコーチシステムの構築も重要である。

障害者の就労において、特性や対応に認識や理解不足と、不安から消極的姿勢になっている企業に対し、2.OJTにおけるコーディネーターの代行や、現行の福祉的就労の域から抜け出せずに就労支援活動を展開している、3.自立支援法における中核的機関や団体に対し、就労のツールとしてのICTの利活用の指導と、取り組みのノウハウを提供していくことなどが課題として考えられる。

これらは、我々支援団体にしか出来ない新しい取り組みではないかとの考える。

職域の拡大を考える時、従来からいわれるところの「障害者にでも出来る就労」から、「より付加価値の高い仕事」や、「障害者の視点でしかわからない仕事」の掘り起こしも併せて取り組む必要がある。今回の調査項目に取り上げたように、あらゆる面において、全国の支援団体と、連携を取る必要性を強く感じている。

(3)戦力としての当事者

社会の理解、環境の整備が進むことで、障害者の就労環境は大きく変わることが考えられる。我々障害当事者としては、引き続き変革を求めていくと同時に、いつまでも制度や周りに支えられ保護的環境に甘んじることなく、就労に対しては、これまでのように予め準備をされた教育や訓練・研修プログラムに甘んじることなく、しっかりとした自らの目的を確保し、学ぶべき事を見つけ出す意欲と、幅の広い対応能力を身につける必要が迫られている。

そんな思いを、図-2にまとめてみた。

図-2 「求められる人材」育成のためのシステム

重度の障害をもつ人も、制度や社会システムの支援(含む、教育・職業リハビリテーション教育)により、本人の意志・意欲と能力を最大限に発揮し、ITの力も借り、社会や企業の求める知識や技能・技術を身につけ、これまでの受身的考え方から一歩も二歩も踏み出し、当事者自ら、社会や企業の「求めている人材」「求められる人材」としてスキルアップしていく必要がある。このことは、既に働いている障害者にも言えることであり、不景気な時代、転職も含め「職域」を広げるために大切なことだと考えている。

これからは、障害者だからこそ国際的立場に立ち、広い視野から物事を捉え、発言できるようにならなくてはいけない。そうすることにより、今まで未知とされていた領域に新たな道が拓け、可能な職域も増えることにつながるのではないだろうか。

0

今回の調査の中で感じた、「働きたい」と願い頑張っている私達障害者に、今一番求められていることは、「障害の有無」や「飛び抜けた技術力」「身体的ハンディー」ではなく「人柄」、まさに「人そのもの」である。

障害があっても、誰にも負けない「意志」と「意欲」により、いかに「努力」をするか。その努力と工夫により、今ハンディーとなっていることを自分の「力」「持ち味」として活かしていけるかが問われているように思った。

3.まとめ

今回、当事業に応募し調査研究を始めたが、政権交代により通常より約半年以上遅れての事業開始となった。このことは、障害当事者による調査研究実施の上において、この冬の異常気象とも相まって、大きな足かせとなった。

調査研究を始めた直後に開始された新政権による「事業仕分け」初日において、当事業の打ち切り廃止が打ち出され、動揺と不安の中での取り組みとなったことはいうまでもない。

現在、障害者自立支援法の廃止・見直しと、新たな障害者制度の策定に向け「障がい者制度改革推進会議」が立ち上げられ審議が続けられている。

既に、「雇用」における課題等も取り上げられ始めているようだが、

  1. 「一般就労」にも「福祉的就労」にも適さない重複障害児・者への対応(含む、教育)
  2. 「雇用」という形態に属せない重度障害者の「意識」「意欲」「能力」の活用と対応
  3. 「在宅就業」に対する位置づけと、支援者への社会的・公的支援のあり方
  4. 障害者の就労を考える上での縦割り行政の壁の撤回
  5. 制度や施策の上での「セーフティーネット」に対する考え方の見直し
  6. 福祉と教育を始め、医療・保健・産業・・・等あらゆる分野間における連携の必要性

今回の調査研究における問題点や課題と成果は、今後「障がい者制度改革推進会議」の下に設置されるであろう「就労」に関する専門部会等の場において、何としても取り上げ審議されることを願わずにはおられない。

人一倍就労願望の強い障害当事者でありながら、支援側での関わりに携わる立場として、年金の違いや補償制度の違いにより、「就労への意欲を持つ人と、持たない人」・「働かなくていい人と、家族と生活を抱え、働く必要に迫られている人」等との格差の是正と整理・見直し、「重度の障害を抱え、働くために血のにじむ思いの努力」をした人の、少なくとも「努力の過程」にまで目が向けられる社会であり、制度・システムであって欲しいと願う。

そうした社会の実現により、「働く」・「働く場」を確保することで「自信」と「誇り」を胸に、「輝き」、大きく社会に「翔く」事が出来る人達が沢山いることを是非知っていただきたい。

今後も、この取り組みを出来る限り長く継続し、働きたいと願っている人をはじめ、一人でも多くの人達に伝えていく事が出来ればと考えている。